染色の豆知識

一枚の布に美しい模様を描き(染め)たい。そんな思いから「模様染」が始まったのだろう。その最古のものが絞り染だといわれる。模様を染める技法は多種多様だが、絞り染、型染、友禅染についてふれてみたい。

着物

絞り染

折る、縛る、縫う、被せるなどして、染料が浸みこまない部分を作ることで模様を染める。正倉院にも収められていて、奈良時代から行われていた最古の模様染だといわれる。インド、東南アジアなど、世界中に絞り染はあり、誰もが身近にあった模様染だといえる。それだけに庶民にも浸透していたが、室町~桃山時代に高度な絞り染「辻が花」が出現し、武家社会など高貴な身分の人にも受け入れられた。

絞り染には、木綿に藍染したものと、絹に疋田(ひった)絞り、京鹿の子絞りなどを施した豪華なものがある。江戸中期に盛んになった京鹿の子絞りは数ミリの粒を糸で括る贅沢なもので、熟練の職人が何年もかかって括った。

絞り染め

型染

和紙を数枚重ねて張り合わせ、柿渋などを塗って丈夫にした型紙に文様を切り抜き、切り抜いた部分に糊を置いて防染して文様を表現する。切り抜いた部分に直接彩色する方法もある。

武士の正装である裃(かみしも)も型染で染められている。無地かと見紛う細かい柄だが、それぞれの藩によって異なっていた。3センチ四方に800から1200単位の文(文様)が入る細かい型紙は伊勢型紙の技術でないと表現できず、全国の裃(小紋)の型紙を受注して彫っていた。この技術は江戸小紋、京小紋などに発展していった。

友禅染

江戸時代初期の扇面絵師・宮崎友禅斎が始めたとされ、扇絵を小袖の文様にして染めたのが友禅染とされ、絵画的な表現が人気となった。染めの技法として、隣り合う色同士がにじまないように文様の輪郭に細くデンプン質の糊を置く。この糊を糸目糊といい、三角形の先端に口金を付けた糊筒に糊を入れて絞り出しながら線を描いた。明治になると広瀬治助によって「型友禅(写し友禅)」が考案され、友禅染の量産が可能になった。昭和初期になり、取り扱いが平易なゴム糸目が多く扱われるようになった。手描き友禅染はデザイン、文様の柄、下絵、糸目糊置き、地入れ、色挿し、伏せ糊、地染め、蒸し、水元など多くの工程があるが、それぞれ専門の熟練した職人があたった。その職人たちのコーディネーターでありプロデュ―サー的役割を担う者を悉皆(しっかい)業という。分業が多くの美を生み出していた。

京都絞り工芸館 絞り染めの鳥獣戯画

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