うるしの豆知識

うるしは日本、中国、朝鮮半島、東南アジアで発達した漆芸の素材である。その歴史は古く、縄文時代末期には日本独自のうるし文化が存在していたことが数々の出土品から分かる。仏教の伝来とともに大陸の漆芸品が日本に伝わり、それを機に日本の漆芸が著しい発展を遂げる。装飾的で高度な技法が発達し、海外でも高い評価を得た。日本の漆芸は「ジャパン」と呼ばれ珍重されるようになった。

うるし

うるしの採取

ウルシの木は東南アジア、中国、朝鮮、日本などに生育する落葉喬木で、その幹を横に傷つけて、にじみ出る樹液を採取する。これを「掻き取り」という。

10年程経った木1本から採取できる量は茶碗1杯ほどで、漆が大変貴重であることが分かる。不純物を綿に含ませて濾過したうるしを「生漆(きうるし)」といい、これを加熱しながら撹拌して精製する。現在、国産漆は減少の一途をたどっており、流通している漆全体のわずか3パーセントという極めて稀少なものになっている。

うるし

素地について

うるしはあらゆる素材に塗ることができる。
とりわけ木材と相性がよく、木材を素地とする場合は木胎という。このほか、棬(けん)胎(細長いテープ状の木や竹をずらして張り重ね器型にするもの)、一閑(いっかん)張りで有名な紙胎、竹を編んで成型する籃胎、金属を素地とする金胎などがある。乾漆は麻布を型に貼り重ねて成形し、最後に型からはずし胎(素地)とする。この技法で仏像などが造られた。

京漆器の特徴

全国の漆器産地の中でも、京漆器の特徴は薄い木地を使って、入念な下地を施した上に華麗で繊細な蒔絵を描くところにある。下地は砥との粉という風化した粘板岩や頁岩(けつがん)を微細な粉末にしたものを塗り重ねて作るが、この砥の粉は京都山科の特産品だった。
漆器などの表面に金や銀の粉を蒔くことで装飾する蒔絵の技法は奈良時代に生まれたとされ、平安時代以来1200年の歴史と技法を受け継いできた。茶の湯とともに、「わび、さび」という内面的な美しさも加えて、漆器はさらに発展していく。
とりわけ、その美の結実の一つとして、高台寺蒔絵がある。豊臣秀吉の正室ねねが開いた高台寺には、桃山美術の粋というべき高台寺蒔絵が所蔵されている。黒漆を背景に金の平蒔絵、絵梨地(えなしじ)、針描き(はりがき)など、多くの技法を組み合わせて作られている。自由で斬新なデザインは、戦国武将たちの好みだったのかもしれない。
蒔絵の美は千年の時を超えて今に引き継がれる。

高台寺掌美術館 高台寺蒔絵  
重要文化財 楓桐菊蒔絵薬味壺

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